トピックス
監修医によるWCDの解説
東松山医師会病院院長
埼玉医科大学国際医療センター心臓内科客員教授
松本万夫
WCDシステムの概要 (文献1)(文献2)
WCDはWearable Cardioverter Defibrillator(着用型自動除細動器) の略で、商品名はLifeVest(ライフベスト))と呼ばれています(旭化成ゾールメディカル社製)。WCDは「ベスト」型をしています(図1、図2)。着用中、連続して患者さんの心電図をモニターし、致死性頻脈性不整脈(心室頻拍(VT)、心室細動(VF))を自動で検出し、自動で除細動治療を行う装置です。
WCDの構成
ベスト、電極ベルト、コントローラで構成されています。
その他付属品としてバッテリおよび充電器があります。
図1:LifeVestの構成
図2:実装の外観
患者さんが装着する「ベスト」は、3つの除細動電極と4つの心電図電極を含む電極ベルト、及びコントローラから構成されています。
コントローラの重量は約800g、4極の電極により2チャンネルの心電図をモニターし、除細動電極は前胸部に1つ、背部に2つあります。除細動ショック直前に患者と除細動電極間の抵抗値を下げるため、電極に内包される青い導電性ジェルが放出される仕組みになっています。
通常の状態ではいつも身に着けている衣服と同様な着心地で、べたつきや湿った感じがしないよう不快感を減らす工夫が施されています。除細動が必要な心電図波形を検出した場合には、コントローラからバイブレーション及びアラーム(警報音)が鳴り、音声とスクリーン表示で患者さんに知らせます。患者さんの意識があり、除細動が不要な場合には患者さん自身がレスポンスボタンを押すことで除細動モードが解除され、不適切な除細動ショックを回避する仕組みとなっています。
患者さんに意識がなく、除細動が必要な場合にはアラーム(警報音)が鳴り続け、自動で予め設定されたエネルギー値で電気ショックが作動します。LifeVestが致死性頻脈性不整脈を検知してから電気ショックが施行されるまでの時間は、通常1分以内です。イベント発生時は、自動で心電図が記録されます。
また、患者さんによる手動の心電図記録も可能です。LifeVestからダウンロードされた患者さんのデータを医師が遠隔でモニタリングできるオンライン患者データマネジメントシステムも搭載しています。
1回の除細動ショックで除細動されない場合は、最大5回までショックを作動するよう設計されています。
WCDの有用性
ICD適応患者さんに対するWCDの有用性については、ICDとほぼ同様の効果が期待できます。このため、ICDが一時的に使用できない場合にWCDを使用することについて異論はないと思います。これを便宜的にWCDの二次適応ということにします。ICD植え込み適応の二次適応と一次適応の両方を含みます。
さらにWCDの有用性としてICD植込みが適応とされていない心臓突然死高リスク患者さんに対してもWCDは心臓突然死予防の医療機器として期待されます。このような適応を、あえてWCDの一次適応と名付けたいと思います(私見)。次のような場合はガイドライン(文献3)でICDの植込み適応ではないとされていますので、このようなケースが該当します。
・左室駆出率35%以下で、NYHAクラスIIもしくはクラスIIIの心不全症状を有する急性心筋梗塞発症後40日以内の患者さん
・左室駆出率35%以下で、NYHAクラスIIもしくはクラスIIIの心不全症状を有する冠動脈バイパス後または経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後90日以内の患者さん
・左室駆出率35%以下で、非虚血性急性心不全発症後90日以内の患者さん
以上のような状態でICD植込みをすると、心臓突然死は回避できますがそれ以外の原因による死亡率も高いことが示されています。
一方で急性心筋梗塞後の心臓突然死リスクは、最初の30日間で最も高くなります。急性心筋梗塞後に左室駆出率≤40%の患者さんを登録し経過観察したVALIANT試験(文献4)では、2年間のフォローアップ期間中に突然死または心停止を呈した症例は7%、そのうち19%が心筋梗塞発症後30日間以内にイベントが起きています。左室駆出率≤30%とすると月あたり2.3%突然死リスクがあると報告しています。
WCD着用患者(2,000例)の前向き登録試験であるWEARITⅡ試験(文献5)で示されるように、この期間にWCDを用いることで心臓突然死予防ができると考えられます。
また、状態が安定するまでの期間にWCDで経過を観察することで不必要なICD植込みが避けられる可能性も上げられています。種々の報告をまとめると、
①全世界での使用症例は100万人を超えている
②適切作動率0~3.1%、
③最初のショック成功率98%、
④ショック後生存率92%、
⑤不適切作動率0~2.1%、
⑥平均使用期間は2~3か月、
平均使用時間は22.5時間/日でICD植込み症例に匹敵するパフォーマンスを示していることが報告されています。発症早期における突然死が報告されている心筋炎後心筋症,たこつぼ心筋症,産褥後心筋症,特発性拡張型心筋症などにおいてもWCDの有用性が期待されます。また心臓移植待機患者さんにも適応となります。
まとめ
心臓突然死予防のための新たな治療戦略として臨床活用されている医療機器:WCD(LIfeVest)をご紹介しました。命を守るためのICD、ICDが使えなくなった時の代替え、またはICD適応可否が決まるまでのブリッジとしてWCDは役立ちます。そして、ICD植込みができない心臓突然死高リスク患者さんの命を守る手段としてWCDが周知され、より多くの命が救われることを願っています。またそのためにはWCD使用の施設条件の改定が必要と考えます。
文献
1)松本万夫:ベッドサイドティーチング 心臓突然死予防における着用型自動除細動器治療 呼吸と循環2016, 64(10):1022-1026.
2)WCDドットコム:https://wcd-info.com/general/about.html
3)日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/07/JCS2018_kurita_nogami.pdf
4)Scott D. Solomon, M.D.,Steve Zelenkofske, D.O., John J.V. McMurray, M.D., Peter V. Finn, M.D.,Eric Velazquez, M.D., George Ertl, M.D., Adam Harsanyi, M.D., Jean L. Rouleau, M.D., Aldo Maggioni, M.D., Lars Kober, M.D., Harvey White, D.Sc., Frans Van de Werf, M.D., Ph.D., et al., for the Valsartan in Acute Myocardial Infarction Trial (VALIANT) Investigators: Sudden Death in Patients with Myocardial Infarction and Left Ventricular Dysfunction, Heart Failure, or Both N Engl J Med 2005; 352:2581-2588.
5)Kutyifa V, et al. Use of the wearable cardioverter defibrillator in high-risk cardiac patients: data from the prospective registry of patients using the wearable cardioverter defibrillator (WEARIT-II Registry). Circulation. 2015; 132: 1613-9.